【春の日の温もりは】







「…あれ?」



柔らかく、温かな重みに気付いて目を開く。

通り過ぎた風にふわりと揺れる銀糸のような髪。
ふっくら、桃色に染まった愛らしい頬。




「あは、可愛いなぁ‥」



オレの腕を枕代わりにしてしっかり寄り添い、眠る
小さなその姿に、思わず頬が緩む。

この子もまた自分と同じく、暖かな春の陽射しに
誘われてきてしまったのだろうか…?

そんなことを考えながら
そっと優しく髪を撫でてみる。




「わぁ‥ホントにすごく柔らかい。
子供って、見たままな感触してるんだねー‥」


好奇心のままに
ふにふにと弾力のある頬に触れると、
長い睫毛が軽く震えた。

起こしてしまったかな?と一瞬驚いたけれど、
目の前の存在は一向に起きる気配がないようで。



「白龍〜?」


「………。」



小さく名前を呼んでみるが、やはり起きる気配はない。


時折軽く身じろぎをしながら
暖かな光の下 丸くなるその姿に、

まるで子猫みたいだ‥

なんて思ってしまって、
クスリとひとりでに笑みが零れた。










「…んん‥」


「……?」


しばらくそのまま観察していると、
不意に吐息が小さく漏れ。

ゆっくりとした動作で金の瞳が顔を覗かせ
小さな体がゆるゆると眠りから覚めていく。



「……あ‥」



「白龍、起きたのかい?」



ぱちぱちと数度
瞳を瞬かせてから目元を擦る小さな手。

そうしているとようやく思考が戻ってきたのか、
大きなそれがじっとオレを捉えて、
確かめるように名を紡いだ。



「かげとき‥?」



「…うん、そうだよ」


微笑んで、優しく頭を撫でれば
幸せそうに目を細め笑い返すその姿に、
胸の中がふわりと温かくなる。



「景時、私‥眠っていた?」


「そうだね、よく眠ってたみたいだよ?
濡縁は陽射しも暖かいし、それでいて風もよく通るから
お昼寝には最適の場所なんだよね〜。」


「景時も、お昼寝‥をしていたの?」


小首を傾げて尋ねるその姿に笑みを深めて、
景時は春の色へと色付いた庭に視線を移した。


「今日はちょっと時間が出来たから、
洗濯物を干すついでに花でも愛でようかな〜
なんて思ってたんだけどね?」


「…温かいから眠たくなってしまった?」


「あはは…うん。そうなんだよね〜実は。
…ところで、白龍はどうしてここへきたの?」


「え…?」


くりくりと大きな瞳を見開いて、
白龍がまた首を傾げた。

幼さが滲み出るその反応に
優しく瞳を眇めて、応えを待つ。




「えーっと、ええと………あ!」


「ん…?」



「思い出したよ!私は、景時に用事があったのだった!」


「えっ?オレに??」


「うん!これを…」





懐を探っていた紅葉の手の平が目の前に広げられて、
甘い匂いがふわりと鼻を掠める。




「…お菓子?」


「うん。甘くて綺麗なお菓子、譲に頼んでたくさん貰った。
だからこれは、景時にあげる!」


「え…?」

満面の笑顔と
差し出された温もりに胸が熱くなる。


お菓子は君の大好物なのにね?


そんなことを思って。

優しい心遣いが嬉しくて。



「ありがとう」と、笑顔で差し出されたそれを受け取った。






「甘いお菓子は、疲れがとれると聞いたよ!それに、みんな嬉しい!」


「うん…そうだね」




「嬉しい気持ちが集まれば、人は元気を取り戻す!
…景時も元気になった? 私、景時には元気でいてほしい!」



「白龍……」





屈託のない笑顔。


偽りのない真っ直ぐなその言葉に
じんと目元が熱くなる。





「…ありがとう」


「うん!」




白龍が龍神だから…?


オレが神子を守る八葉だから?


気の流れを敏感に感じとるから?




ううん…きっとこれは違う。


そんなものがなくても君は心の奥深く、

オレの悲しみに気付いていたのかもしれないね…。



思って、にこにこと微笑む
愛らしい笑顔に優しく手を添えれば
嬉しそうに瞳を細めて擦り寄る小さな温もり。





オレの手は、とてもとても冷たいものなのに。





それでも…



「景時の手は優しくて、あたたかいね」


と、そう言って君が笑いかけるものだから。





オレはその時、ほんの少しだけ…


泣きそうになってしまったんだ。







「あは…っ、じゃあ白龍。これはここで一緒に食べようか?」


「私も一緒っ??」


「うん、だってこんなにたくさんあるんだからね!」


「うん!うん!景時と一緒!私、すごく嬉しい!!」



溢れそうになる何かを堪えて、
精一杯、笑顔を作り提案すれば
白龍はまた無邪気に笑って何度も頷き、跳びはねる。

全身で喜びを表現するその姿がなんとも可愛くて、
仔うさぎのようだ‥と思わず頬を綻ばせると、
大きな瞳がこちらを見上げ、にこり、と笑い返してきた。








ぽかぽかと暖かな濡縁で
甘いお菓子を二人、分け合う。




「美味しい?白龍。」


「うん!景時、とてもおいしいよ!」


「そっか〜!」








不意に吹き込む春風に、
柔らかな銀糸が輝いて揺れる。


一つ、口へと放り込んだ菓子が
口内で溶けて広がり優しい甘さを伝えてくれた。





「…ん、美味し‥」





色付いた庭からふわり、花の優しい匂いがして


差し込む陽射しと隣にある眩しい笑顔に



オレはそっと



瞳を細めた。







                                   - Fin -






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これも携帯作成だったり・・;;
 
白虎+白龍という組み合わせも可愛いのでスキです。(*^_^*)

それにしても・・季節はずれ&駄文で申し訳ない・・・onz