【愛し君へ捧げる言の葉】


※夢浮橋ネタ (主人公設定:望美)








「友雅殿ー!翡翠殿ー!
早く行かないとみんなから遅れちゃうよー?」

眉を下げ、情けない声を上げて、景時は目の前の二人を困ったように見遣る。

我らが龍神の神子である望美からそろそろ出発すると収集がかかり、
もうどれほどの時がたったのだろう?

先程からこうして何度も声をかけているのにも拘らず、
二人はそんな景時を尻目に南斗宮の庭で楽しげに談笑をしている。






賑やかさに誘われて

この地へと足を運ぶ、


大勢の天女達と。





「ふふ、そうだね。天界に咲く花は確かにどれも美しいが…
今、私の目の前で神々しいまでの美しさを放つ
貴女という花の魅力には、天地のどんな花とて到底、敵うまいよ。」



友雅の甘い声色と言葉に、「まあぁ‥」と一人の天女が顔を赤くする。



「君のその美しさには、月も恥じらい、姿を隠してしまうだろうね。
尤も、宵闇の中、貴女と二人きり‥というのも
またなかなかに刺激的で悪くはないが。」


艶やかな色を含む翡翠の笑みに魅入られて、一人、また一人と、天女達が頬を染めては腰を折る。





ある意味、もの凄く悲惨な光景だ…。



思い、景時はもう何度目かになる溜息を大きく空へと吐き出した。



「友雅殿ー‥翡翠殿ー‥」



「おや、なんだい?景時殿。」


「もしかして、君も仲間に入れて欲しいのかな?」


「えぇ?!」



驚く景時の肩を、飄々と歩み寄ってきた翡翠が自らの方へと引き寄せる。

それを対面して見ていた友雅は常のように優雅な動作で
扇を口元へと添え、クツクツと楽しげに喉を震わせた。




「ああ‥景時殿、そういうことならば君も仲間に入れてあげるよ。」


「ふふ、君も男なら…この美しい花々に似合いの言の葉を、私達と共に考えてみてはどうだい?」


「………。」



ああ…オレ今、明らかにこの二人から揶揄われてるよね。




二人のひどく愉快気な視線を受けて、
歳でも言葉でも態度でも彼らには敵わないと悟ったのか、
景時は、ははは、と力無く苦笑し、軽く肩を竦めてみせた。



「いや、オレは遠慮しとくよ〜。二人みたいに上手い言葉なんてなかなか出てこないしさ?」



「おや…」とわざとらしく友雅が目を見張る。


心地よい春の風に髪を遊ばせ、翡翠はなおも愉快気にクスクスと笑ってみせる。



「では、景時殿。君は普段どのようにして愛しい女(ひと)へ愛を囁いているというのかな?」


「……えっ!?いや…い、愛しいひとって…」


「ああ、是非ともご教授願いたいものだねぇ…。
一体どのようにすれば、あの薄紅の
可憐な姫君を喜ばせることが出来るのか……」


「はっ!?薄…紅…?」



言われて景時の脳内に浮かんだのは、いつも強くて優しくて、
闇に紛れた己の中で一際、眩しい光を放つ、一人の少女…。



「…あ、あの、だからオレは…」


「おや、そうして顔を赤らめているということは、我々の読みに間違いはないのだろう?」


「…ひ、翡翠殿!」


「何を慌てることがあるというんだい?
相手を本当に愛しいと想っているのならば…
わざわざその気持ちを、隠してしまわずともよいだろう?」



「と、友雅殿……」



いつの間にか、揶揄うような視線の代わりに
景時へと向けられていたのは、慈愛の込もった温かな二つの眼差しで。





「で、でも、オレには…」


「何も上手い言葉など考える必要はないよ。
思ったことをそのまま伝えればそれでいい…。」


「ああ、そうだね。それが大切な相手ならば尚更、
景時殿の言葉で、彼女に想いを伝えることが1番なのだよ。」


言って、友雅が手を伸ばし、俯く景時の髪をくしゃりと撫でては微笑む。

翡翠が、引き寄せたその肩をぽんぽんと軽く叩いては口元を緩ませる。



「オレの、言葉で…」



「ああ、そうだよ。」



「まぁ、頑張りたまえ…景時殿。
私達は一応、君の味方でいるつもりだからね?」



「…はは、有り難う二人共。勉強になったよ。」



景時は、経験豊富な先代先々代の二人へ
感謝の意を示し、にこりと柔らかく微笑み返す。

それに、友雅は、ぱちりと軽く扇を鳴らし、
翡翠は穏やかに瞳を伏せて、二人同時に場を離れた。








「……あっ!!友雅殿!翡翠殿っ!!」




そのまま、歩き出そうとしていた二人をはっきりとした声が呼び止める。




「なんだい?景時殿…」


「どうしたんだい?」



振り向くことなく応えた二人に、にっこりと微笑んで、景時は大きな声で呼びかけた。




「はいはい、二人とも〜女の人を口説くのは後にして、早くきてね?
二人が遅れたせいで、オレが望美ちゃんに嫌われでもしたら、大変だから〜っ!!」


重い身体を引きずるようにして二人、ゆるゆると振り向けば、
そこには、「味方してくれるって言ったでしょ?」とでも言いたげに
満面の笑みを浮かべて立っている景時がいて。


先程とはまるで違った、堂々たるその姿に、
二人は思わず顔を見合わせ、苦笑した。



「これは、手厳しいねぇ…」



「おやおや…少々、助言が過ぎたかな?」




呟く二人を引き連れて、向かうは愛し君の元。





「友雅殿、翡翠殿。早く二人の愛しい人も助け出してあげないとね?」



「ああ…そうだね。」


「言われずとも、そのつもりだよ?」



肩を並べて歩きだす三人の間を、

ふわり、天界の柔らかく心地よい風が、吹き抜けていく。




高く、青い、あの空に


愛しい人への


想いを乗せて。




地白虎達は三人仲良く、

皆の待つ南斗宮へと足を踏み入れるのだった。

                        





                                    -了-  









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名前変換はないですが・・・とりあえずこれはドリームカテゴリで;(ぇ

夢浮橋ネタ・・・何ヶ月か前に書いていたものを発掘しました;;

他にもまだまだ書きためてたのあるから、また沢山更新しないとねぇ・・・・(苦笑)

とりあえず・・・・地白虎が沢山書けて満足だったゼ☆←