潮騒の音に紛れて 遠ざかる背中。



あの時空で容赦なく向けられた、

まるで氷のように冷たい瞳。



どんなに叫んでも

それらは決して振り返ることはなく。



いくら手を伸ばしても、

この手に掴むことの出来ない…月。




そう…



『どんなに手を伸ばしたって、月には手が届かない。』


と、彼はどこかでそう言っていたけれど…



本当に掴むことの出来ないものは、

寧ろ、彼自身なのではないだろうか…?








     【月の背中】










「………あ。」


ふと、目の端に映った藍色の衣。

角を曲がっていったその背を、気付けば無意識に追いかけていた。





「…景時さんっ!」


「……え?」


捕まえて、後ろから裾を引けば、驚きに丸くなった瞳のまま

彼は足を止め振り返る。



「ど、どうしたの?ちゃん」


「…えっ!? あっ!えっと……」





ただ、声をかけてみたかっただけ。




こうして、触れてみたかっただけ。




本当にそれだけだったから、

勿論、この場に合わせたちょうど良い話題など

は用意しているはずもなかった。




「あ、あの……」


「……?」



「…あ!えっと、か、景時さんは今日…何か予定ありますか?」





かなり無理矢理な話題。



そう思ったが、咄嗟に口をついて出て来てしまったのだから、

今更、後悔したって仕方ない。






「あー‥予定、かぁ…そうだな〜?
とりあえずこれから洗濯物は干すとして…
他には何も入っていないよ?」


「そ、そうですか‥」



幸い、景時はさして気にも留めることもなかったようで。


いつも通りの笑顔にはホッと胸を撫で下ろすと、

改めて目の前の彼をじっと見上げた。




「それじゃあ、あの、私もお洗濯‥手伝っても良いですか?」


「…えっ?手伝ってくれるの?」



「…あ!迷惑じゃなければそのー‥手伝ってみたいな〜なんて…」


「いやいや!全然迷惑なんかじゃないよ〜!
ちゃんが手伝ってくれるなんて、嬉しいな‥」




言いながら、目尻を少し朱に染めた

甘さの滲む微笑みを向けられて


思わず胸の鼓動が大きく跳ねる。





そう、私は彼の

温かくて優しい

陽だまりのような笑顔が好きで――。


















「ふんふんふーん♪」



少しだけ調子の外れた鼻歌を奏でながら、

景時は洗い立ての洗濯物達を

嬉々とした面持ちで次々に干していく。



春の風に優しく揺れる衣達と、

雲一つない澄んだ青空。




それらはとても魅力的な 光景だったのだけれど…



その間も、の瞳は景時の背中から決して離れることがなかった。





「………月、か‥」





ポツリとそう零して一つ息を吐き、

その言葉を否定するかのように軽く首を振ると

はようやくその大きな背から目を逸らして

青空を見上げた。



そのまま瞳を閉じれば

瞼の裏にじんわりと春の光が染みて。





もう一度、目を開け正面を見れば

変わらずそこにあるのは

楽しげに揺れる大きな背中。




広い広い彼の背は

幾度、時空を巡っても決して変わることがない







切なくて  悲しくて


苦しくて    でも














優しくて  温かくて














  「……好き‥」







小さく掠れた 吐息混じりの本音。

だから、きっと彼には聞こえない。





こんなにも苦しくて‥

でも、どうしても手放せない想いを



“今”の彼は知らない。








 知らない……のに。












「……うわっ!!!なっ、何??

……ちゃん?」



「景時さん……」






なのに私はこんなにも

あなたのぬくもりが欲しくて。





あなたの背を 捕まえたくて。





離したくなくて







――手を伸ばす。








「景時…さん…」




「………っ」



後ろから捕らえられ驚く彼に、

上手く言い訳も出来ないまま、


強く、強く、その体を抱きしめる。








微かに香る甘い梅花の薫物。



触れた部分からじんわりと伝わる

彼の体温。





生きている というその証に、思わず涙が出そうになって。



は真一文字に唇を引き結んだ。



















     “ごめんね?”















「え……」




不意に、背中越しで告げられた言葉に

は目を丸くする。








ゆっくりと緩んだ手を解き、こちらを見た彼の瞳が

一瞬だけ悲しみに揺れてを捉えた。







「ごめんね? ちゃん、泣かないで?」




「かげ…ときさ…」







それは確かに、あの時の瞳。





何度も時空を越えては失敗を繰り返して、


その度に見てきた





あの悲しい背中と




淡い翡翠の光。











「景時さん…何、を…?」



「………あ‥っ」



ハッ、と我に返ったのか彼は口元へ手をやり

それから、大きく瞳を見開いた。




「あ、いや、違うんだよ!ご、ごめんねっ!
いきなり変なこと言っちゃって…。なんでだろう?
君に抱きしめられた時、無意識に…謝らなきゃって。」


「え……?」



「え、えっと‥あのね?
ちゃんがずっと泣いてて…オレは、それが凄く辛くて。
でも、それはきっといつもオレ自身のせいで。
だから、謝らなきゃって…」




瞳を切なく伏せ、

一つ、一つゆっくりと言葉を紡いでいく彼の唇を目で追うのが

今のには精一杯だった。





「わからないんだ…
どうしてこんな気持ちになるのか。
どうして君に謝らなきゃって思ったのか。
…お、おかしいよね?オレが君と出会ったのは、
ほんの二月程前だっていうのに…」




「か、景時さん…私…」







覚えていた―?







いや…そんな筈はない。




今まで何度時空を繰り返しても

何度となく『私』を知らない彼に出会っても、





それは 当たり前のことだったから。







彼は『私』を知らない。



私だけが……

『彼』を知っていたから。








切なくて、苦しくて、



でも…温かくて、




呆れるほどに優しい人。







何度、手を伸ばしてもその度に

この手の中をすり抜けていく、





大好きで大好きで




狂おしいほどに愛しい



『彼』のことを。













「あー…ご、ごめんね?
さっき言ったことは…あまり気にしないで?
自分でも、よくわかってないんだからさ。」



「景時さん……」




あはは、と苦笑して彼はそっと私の頭を撫でた。



するりと髪をすり抜けていく

優しいその感触に浸っていたくて



思わず静かに瞳を閉じる。













「…どうしたの?ちゃん。 何か悲しいことでもあった?」





「え…?」



言葉に驚いて彼を見つめると、


両の手で優しく頬を包まれ

目の端をそっと親指で拭われる。





「あ……。か、景時さん?あの、私…泣いてなんか…」



「…うん。でも、今にも泣きそうな顔、してるからさ…。」


「え……」


「頼りないとは思うけど…何かあるなら遠慮なく相談してね?
こんなオレでも、話を聞くことくらいは…出来ると思うから。」




私を見つめる優しい瞳に。



その穏やかな声色に。




なにもかもを放り出して、

飛び込んでしまいたくなる。









だけど――










「ありがとうございます、景時さん。 私なら…大丈夫ですから。」



「……そっか‥」




言ってはならない『その言葉』を

決して口に出さないように。






私はそっと、唇を引き結ぶ。













「でも、また辛くなったら…景時さんの背中を借りてもいいですか?」


「え…?」





「景時さんの背中って
なんだか、すごく落ち着くので…」


「あ……う、うん、もちろんだよっ!」



小さくそう言えば、

微かに頬を朱に染め慌てて頷く彼に



笑みが零れる。




「…ありがとうございます。」










そう、私は甘えるわけにはいかないのだ。






月をこの手に掴むには、

きっとたくさんの力がいるから。






どうしても諦めることが出来ないのなら、

そこをひたすら目指すしかないってことも…あるから。











「景時さん」



「…ん? どうしたの?ちゃん。」









私は、この人を


絶対に諦められないから。










「洗濯物を干し終わったら、二人で少し市を見に行きませんか?」


「え…っ?!」



「…あ、あの…勿論、迷惑じゃなければ…ですけど」


「い、いやいや…!
迷惑なんてことは全然ないよ?うん!」



「…そうですか。よかった…」



頬を微かに赤くし、慌てて答える彼を見、

も少しだけ照れ臭そうにして微笑むと、


嬉しい約束をより早く果たすべく

二人はまた

目の前の作業へと意識を向けた。




















「…ん、ふん、ふーん…ふ…♪」




隣で聞こえる不規則な鼻歌と

触れ合いそうな程近くにある


彼のぬくもり。








そう…

月には手が届かないなんて




一体、誰が決めたのだろうか?





それは今、少し手を伸ばせば

簡単に掴むことが出来るというのに。














「うん。 絶対、大丈夫

私はちゃんと 頑張れる…」






そう小さく呟き。





これからの予定をゆっくりと頭に思い浮かべ、

微かに頬を紅潮させながら…

は、





まずは、第一歩!



とばかりに

白く輝く布地を

パンッ、と音を立てて大きく広げ。









今度は、とても晴れやかな笑顔で




澄んだ青空を


眩しそうに仰ぐのだった…









                           -fin-














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はいはい・・またまた景時ドリームですよ。(爆)
ちなみにこれも携帯作成です・・
一応、手直しとかはしてるんですが、毎回、見づらくて申し訳ない・・。m(_ _;)m
ホントは景望にしようかなぁ・・とも思っていたのですが、
まぁ、とりあえずは今回もドリームにしてみたり。。。(ぁ;

うん・・・・。
「どんなに手を伸ばしたって、月には手が届かない。」
みたいなことを、彼はイベントで言っていたと思うんですが・・
たまに、「それはこちらの台詞だよっ!!ばかぁ・・っ!!」って
叫びたくなるんですよねぇ・・ハハハ・・;;(-∀-;)【爆】

景時さんは、優しくて酷い人な上に 月の姫ですから。(なんじゃそりゃ;/笑)

それから、文中で景時さんがよくわからないと言っている、曖昧な記憶ですが・・・。
・・・げ、逆鱗使っても、絆の関とかってそのまま埋まってますよね・・?;
だから・・何かしら・・・・。たぶん覚えてはいないんだろうけど・・
魂にはその記憶があるような感じしません・・か・・??;(ぁ;

・・・えと・・・しません・・よね;; 
捏造で、す・・すみません・・・・m(_ _;)m【謝った!;】


で、ではでは!アトガキ(言い訳;)が長くなりすみません;;
駄文ではありますが、皆様に少しでも楽しんでいただけたなら幸いです・・。

失礼いたしました・・・・・<(_ _)>